黙したままの祐介に、ボクは戸惑う。

どうしたのだろう?
今日は皆、朝から変だ。
怪訝に首を傾げると、彼はふと表情を柔らげて言った。

「ごめん…何でも無いよ、気にしないで。ところで、薙は何処に行くの?もしかして真織さんのところ?」

「うん。今、着いたって聞いたから…」
「会わない方が良い。」

 祐介は、堅い表情で言った。

「裁定前に『被裁定者』に会うのは、あまりお勧めしないよ。余計な誤解を招くからね。話があるなら、全てが終わってからにしたら?」

「挨拶するだけでも?」

「──そうだね。よした方が無難だろう。『裁く者』と『裁かれる者』が裁定前に接触した事が判明すれば、当然、両者の間に『特別な繋がり』があると疑われる。他の裁定者達が黙っていない。不正行為を疑われたら、キミの意見も全否定されてしまうよ?そうなったらもう、彼等を助けるどころの話じゃなくなる…。本末転倒だ。」

 理路整然と語る祐介に、ボクは返す言葉が見付からなかった。

──確かに。ここまで来て、『最後の可能性』を摘み取る様な真似は出来ない。

軽弾みな行動は控えなくては…。
協力してくれた祐介や一慶の好意を無にしてしまう。

「解った。会わずに、このまま会場に行く。」

「それが良い。一緒に行こう。僕もキミに訊きたい事があるしね。」

「訊きたい事…って?」

 ドキリとした。

動揺を隠せないボクを見て、祐介は意味深長な含み笑いを浮かべる。

「昨夜は、良く眠れた?」

 満を持して切り出された言葉に、ボクは二の句が接げなかった。