「で…結局、何だったんだろう?」

 言われた意味も、言わんとするところも、最後までサッパリ解らなかった。

「彼も、色々と大変みたいだね。」

 またしても背後から声が掛かり、ボクの肩がピクリと跳ねる。声の主なら、振り向かなくても判っていた。

「祐介…。」

 いつの間にやって来たのか…ボクの直ぐ後ろに、夜勤明けの坂井祐介が立っている。烈火とは、実に対照的な出で立ちだ。

ワイン色のシャツ。
ゴシック風の黒のネクタイを締め、濃いチャコールグレイのパンツと合わせている。

難しい色合いもサラリと着こなす、相変わらずのセンスの良さ…。

 紅葉し始めた中庭の木々を背にスッと立つ姿は、ファッション誌のモデルそのものだった。

暫し見惚れていると、祐介は小さく笑ってこんな事を言う。

「そんなに見詰められると、居堪(イタタマ)れ無いな。穴が空きそうだよ。」

「…ごめん。あのさ。今の、見た…?」
「あぁ。偶々(タマタマ)、視界に入ったからね。」

 偶々──か。
それにしては、随分タイミング良く現れた様な…?

 涼しげに嘯(ウソブ)く彼に…ボクは、敢えて話題を振ってみた。