それにしても近頃、男の人に抱き付かれる事が多い。冷静に考えれば、ボクの周りには男性ばかりだ。親しい女性は、篝と沙耶さんくらいしか思い付かない。

苺も…『男』だったし。

 場違いな雑念に捉われながら、何気無く彼の腕に手を掛ける。

すると。触れた瞬間、感電でもしたかの様に、パッ!と烈火の体が離れた。

「…わ、悪い。つい、癖で…。」

 そんな風に謝るなんて、変だ。
彼らしくない。

「本当にどうしたの?なんだか今日の烈火…変だ。」

 正直な感想を云うと、烈火は少し困った様に微笑んだ。

「…だよな。俺、変なんだ。」
「どうして?」

「俺さ…ホントは、髪が長くて胸のデカい女がタイプなんだよな。」

「は?」

 髪と胸??
ますます訳が分からない。

困惑して立ち尽していると、烈火の指先がボクの髪に触れた。まるで壊れ物を触る様な仕草に、ボクは忽ち言葉を失う。

「お前はさ。髪も短いし貧乳だし、色気も無いし。正直全然、俺のタイプと違うっつーか…女っぽくないっつーか。」

「うん…否定はしない。」

 言い当てているだけに、腹も立たなかった。
そこまでハッキリ言われると、いっそ小気味良い。烈火は、そんなボクを見て困った様に笑った。

「何だよ、否定しろよ。」
「出来ないよ。間違ってないもん。」
「あぁ…それなんだよなぁ…。」

 溜め息を吐くや、彼はガシガシと頭を掻く。

「そういう反応が返って来ると、弱いんだよな。好み云々じゃねぇ。結局、好きになった奴が、好きなタイプなんだ。」

「??…はぁ…」

 ──それで?
相変わらず意味不明なのだが。
つまり、何が云いたいのだろう?
頻(シキ)りに小首を傾げていると、頭をポンポンと叩かれた。

「ま、いっか。んじゃ、後でな!」

 そう言って踵を返すと、烈火は、肩越しに手を挙げて立ち去った。