秋晴れ。
清澄な朝の冷気。

色付き、邸内の其処かしこを賑わせる楓の葉も、今朝は、秋の白露にしとど濡れて、いつもより精彩を欠いて見えた。

中庭の池に舞い降りた白鷺が、寂し気に佇んでいる。

 ──いよいよ裁定会、当日。

出席者が集まり始めた頃、裁かれる側の向坂玲一と長男の真織が、別室に到着したという知らせを受けた。

 裁定前に、彼等と顔を合わせておきたくて、ボクは躊躇なく西の客室へ向かう。

 母屋の回廊へ差し掛かった頃…。

「薙。」

不意に誰かに呼び止められて、振り向いた。すると其処には…

「烈火…?」

 赤い髪をこれでもかと逆立て、派手なライダースジャケットに身を包んだ火邑烈火が、迷彩パンツのポケットに両手を突っ込み、此方を見ていた。

 相変わらずのド派手な風体──
だけど何だろう?いつもと少し様子が違う。

無口で無表情だ。
瞳だけが、やけに鋭くて…何やら、初めて会った日を思い出す。

「おはよう。随分、早いんだね。」

自発的に挨拶をしてみたが、返事が無い。
烈火は、ボクの前に立ち、ジッと見下ろしているだけだ。

おかしい。
いつもならここらで、『薙~!会いたかったぜ~』等と言って、ガバッと覆い被さって来るところなのに。

「烈火?? どうかしたの?」

上目使いに尋ねた、次の瞬間。
細い腕が、ふわぁっとボクの体を包み込んできた。

やはり、このルーティンは変わらないらしい。
只…いつもの様に力任せじゃないところが、烈火らしくなかった。