漸く建物まで辿り着くと、玄関前に見覚えのある人物が立っていた。
大柄で筋肉質な身体。
浅黒い肌に、藍の作務衣を身に付けた中年男性が、此方に向かって大きく手を挙げている。
──あれは。
「ぃよう!来たな、薙!」
「おっちゃん…」
『おっちゃん』こと甲本孝之は、ボクの親父の実弟だ。確か五つ程下だから…四十五、六歳だったろうか?外見的には、もっと上に見える。
「ちょっと見ない内に、また一段とデカくなったなぁ、薙。いくつだっけ?」
「十九。もう、おっちゃんたら…先月会ったばかりじゃない、親父の葬式で。」
「あぁ、そうだったけな!」
『まあ気にすんな!』と言って、おっちゃんは豪快に笑い飛ばした。相変わらず気さくというか、大雑把というか…。
呆れるボクに、おっちゃんはニッと笑い掛けると、すぐ隣にいた一慶に顔を巡らせた。
「ご苦労だったな、いち。」
「…あぁ、まあ。」
『いち』と呼ばれた一慶は、曖昧に頷くと不意に顔を背けた。
──どうしたのだろう?
更に機嫌が悪くなった様に見えるが、ボクの考え過ぎだろうか…?