それから、本格的な浄霊が行われた。
一慶が、ボクの左目を覗き込んで言う。

「金目の効果が、中途半端に残っている。目の奥に『術』が引っ掛かっていて、完全に戻し切れてないんだ。」

 成程。言われてみれば、術を解(ホド)く時、左目の奥がツキンと痛かった。

焼ける様な、刺される様な痛み。
あれが『引っ掛かる』という状態なのか?

 様々考えを巡らせていると、コツンと額を小突かれた。

「始めるぞ。目は閉じていろ。」

 慌てて目を閉じた途端、一慶が真言を唱える声が聞こえて来る。

「ノウマク、サンマンタ、バザラダン、カン!」

 短い咒(ジュ)と共に、左目の奥から、ズルリと『何か』が引き擦り出される。

…なに?
全身が、そそけだつ様な感覚。
思わずブルリと身震いすると──。

「終わったぞ。」
「え、もう?」

早い!
こんなに簡単に済むモノなのか?

 そっと目を開けると。目の前に、小さな白い『動物』が見えた。体が半分透けている。

尖った鼻先に、真っ赤な目。
胴が長くて尾が二本ある。

「何、これ?!」

「お前の目から出てきた奴だ。可愛いな、白貂(シロテン)だよ。」

「白貂?動物霊だったのか…。」

「いや。こいつは動物霊というより、神霊に近いな。お前の卷属(ケンゾク)にすれば良い。」

「けんぞく?」

「あぁ。上手く手なずければ、《式神》の様な使い方が出来る。諜報活動やら情報収集やら、何かと役に立つ連中だ。名前を付けてやればいい。お前の命令に従う様になる。コイツも、お前が気に入ったみたいだしな。」