「ところで、お前。」

 剥(ムク)れていると、不意に真顔で訊(タズ)ねられた。

「念の為、確認だが──修練の前に、ちゃんと《結界》を張ったんだろうな?」

「あ、そういえば…!」

 忘れていた──信じられない。
一慶にも祐介にも、厳重に注意されていたのに。

「もしかして震えの原因は、それ?」
「あぁ。初歩的なミスだな。」
「…う。」

睨まれた。
だが、返す言葉が無い。痛恨のミスだ。
結局、自分の未熟さが招いたトラブルではないか!

「結界を張らずに修法を行えば、そうなるんだ。其処ら中の雑多な霊が集まって来る。最初に、そう説明したよな?」

「うん…」

「震えを引き起こしたのは、迷霊の障(サワ)りだ。皆、お前の金目に惹かれて集まって来たんだよ。連中は、丸くてキラキラしている物が大好物だ。今も…お前の左目に、霊が一体入り込んでいる。」

「え、嘘っ!?」

 ボクの左目に、霊が入り込んでいる?
気持ち悪──っ!

「金目になっている間のお前は、『霊界』と『現生界』…つまり、あの世とこの世の境に立っている状態なんだよ。結界を張らないと、霊がウヨウヨ集まって来るぞ。」

「目の中に霊が…目の中に…」
「薙?? おい、聞いてんのか?」

 聞いている。
聞いているけど───!

「気持ち悪いよぅ!ねぇどうすれば良い?取れるの、これ!?」

動揺のあまり乱心気味になるボクの鼻を、一慶がギュッと摘まみ上げた。

「まぁ落ち着け。俺が取ってやる。早いとこ、このキンキラキンのお目々を元に戻さないとな。」

「うん…祐介に怒られる。」

 項垂(ウナダ)れるボクに、一慶はニッと笑って顔を近付けてきた。

「これは一個貸しだ。覚えておけ?」

──厭な『貸し』を作ってしまった。
何やら、高く付きそうで怖い。