──つまり。
あんな風に抱き締めたのは、ボクの金縛りを解く為だと?

「今のも修法のひとつなの?」
「いや。他に思い付かなかっただけ。」

 飄々と言ってのける一慶にボクは、呆れた。

「だけって…考えも無しにこんな事を?」

「お前が安心して、俺に『心』を許してくれるなら、別にどんな方法でも構わなかったんだよ。金縛りってのは、本人の思い込みも関係しているからな。まぁ、思い付きにしては巧くいったんじゃないの?今回は俺の役得って事で、貸し借りは無しにしといてやるよ。」

 役得…貸し借り?
何やら傷付く言い回しだ。
あんなにドキドキしたのに…ボクだけが、驚き損ではないか!

「そう睨むなよ、結果的に治まった訳だしOKだろう?寧ろ、感謝して然るべきだぞ?? 本当は、もっと過激な方法も幾つか考えていたが…敢えて、紳士的な方法を選んでやったんだからな。」

「過激な方法って?」
「試してみるか?」
「やだっ!」

 ボクはキッパリ断わった。
彼が何を云わんとしているか、おおよそ察しが付く。極めてセクシャルハラスメントに近い方法に相違無い。

 半眼眇めて睨(ネ)め付けると、一慶は拍子抜けした様に『なぁんだ、残念』と呟いた。

「まぁ良いか。いずれその内に…な?」

 そう言って、彼は愉しそうに笑うけれど。
ボクなど、最初(ハナ)から本気で相手にしていないからこそ、こんな冗談が言えるのだろう。

 それが悔しくて、寂しいと感じた。
喩え一時でも、無駄に意識してしまった自分が情けない。