…それから一体どれ程の時間、ボク等はそうしていただろう?

やがて、小さく咒を唱える声が聞こえた。

「オンアボキャ、ベイロシャノウ、マカボダラ、マニハンドマ、ジンバラ、ハラバリタヤ、ウン…」

 微かな吐息が耳元に掛かる。
これは、真言の力なのだろうか?
体が温まってが気持ち好い…。

 うとうとと目を閉じた、その時。
突然バン!と背中を叩かれ、ボクは堪らず悲鳴を挙げた。

「痛っ!痛いよ、一慶!! 何するの!?」
「悪いな。でも治まっただろう?」

 言われて、ふと我に返る。
確かに…あれ程酷かった体の震えが止まっていた。言語障害も見られない。

「治った、どうして…?」

 驚いて見上げた途端、一慶の体がスッと離れた。ほんわり温まった体が急に冷えて、それが少し寂しいと感じる。

 茫然とするボクを尻目に、一慶はテーブルの上の煙草に手を延べた。箱をピン!と弾いて一本取り出し、口の端に咥えて、どかっとソファに身を預ける。

「端的に言えば、金縛りだよ。」
「金縛り!? 今のが??」

「そ。お前は、軽い金縛りに掛かっていたんだ。だから先ず、縛られた『心』を緩めてみた。」