『震えを止める』と、一慶は言うけれど。
一体どうやって止めるのだろう?
何か、行者ならではの修法があるのだろうか??

「…ど…する…の?」
「さぁて。どうしようか。」

ボクの顔を眺めながら、彼は、鷹楊と腕を拱(コマネ)いて思案する。

 ──短い沈黙の後。

「やっぱり、こうかな。」

そう呟くなり、突然ボクの体を引き寄せた。
そのまま両腕でグッと包み込む。

「…えっ…?」

気が付けば。
ボクは一慶の胸の中深く仕舞われていた。

 抱き締められている…。
どうしてこんな事をされるのか訳が解らない。

「…ちょっ、一慶!?」

動揺のあまり身動ぎすれば、抱き締める腕の力が一層強くなった。

「動くな。いいから、ジッとしていろ。」
「でも」
「喋るな。」

 その声音は真剣そのもので…ボクは只、言われた通りにジッとしている事しか出来なかった。

密着する体。
髪に触れる吐息。
大きな手の感触。

早鐘を打つ自身の鼓動だけが、ドキドキと身体中に響く。

 一慶の体は温かくて大きくて、ほんのり良い香りがした。

ボクの頭を抱え込む逞しい腕。
もう片方の腕は、背中から腰の辺りへと確り巻き付きついている。これでは、もう身動きが取れない。

 その内、恥ずかしさも抵抗する気力も無くなり…いつしかボクは、包み込まれる安心感に身も心も委ねていた。

やり場の無い両手が、自然に一慶の胸に添えられる。無抵抗になったボクを、一慶は暫くの間、無言で抱き締めた。

ボクの肩も腕も背中も、今は、彼の腕にスッポリと包まれている。

 …服を通して伝わる体温。
温もりと同時に、互いの胸の鼓動が同調してゆく…。

「お前、細いな。これ以上、力入れると折れそうだ。」

 そんな事を言うクセに、包み込む腕は益々強くきつくなる。

「一慶…苦しい…。」

「我慢しろ。もう少しだから。」

 『もう少し』とは、いつまで?

これ以上は、心臓が持たない…。