「ほら!目、見せてみろ。」

ぶっきらぼうに言い捨てると、一慶はボクの肩に手を掛けた。顎を持ち上げ、クイと顔を上向かせる。

 ──と。
いきなりピタリと、その手を止めた。

「薙。」

不意に深刻な顔になる。

 …少しの間を置いて。
一慶はボクの頭から爪先まで、一通り眺めながら訊いた。

「お前、寒いのか?」
「へ!?」

ボクは面食らった。

「どうして?? 別に寒くないけど…。」
「じゃあ、何でこんなに震えてんだ?」

 言われて、初めて気が付いた。
肩が手が、膝が…小刻みに震えている。

「あれ、本当だ。どうしてだろう?」

「自覚が無かったのか?顔色も悪いな。唇が真っ青になっている。」

真っ青?
おかしいな。寒くも無いのに──。

ボクは意識して震えを止めようとした。
だけど、なかなか思うようにならない。
止めるどころか、震えはドンドン酷くなる。

慌てて自分の肩を抱き締めたけれど、それでもワナワナと揺れる体は止まらなかった。

こんな事は初めだ。
自分が自分でなくなった様に、まるで思うようにならない。

 困った末、ボクは一慶に助けを求めた。

「……ど…しよ…体、止まらない…。」

口を開いてみて、驚いた。
まともに話す事も出来なくなっている。
声も唇も、寒さで悴んだ様にブルブルと震えた。

 これを見た一慶が、不意に眉間を押さえて唸る。

「あ~、そういう事か。成程な…。」

一人で頻りに納得している。
こうなった原因に、心当たりがある様だ。

「取り敢えず、体の震えを止める方が先だな。」