すっかり見慣れた、彼の部屋。
黒皮のソファに座ると、すぐに一慶が並んで腰掛け、長い足を組んだ。

「少し前に、祐介から電話があった。薙に無理をさせるなとさ。」

 …ああ、耳が痛い。
聞こえなかった振りをして、ぎこちなく視線を游がせる。

「こら。解り易くシカトすんな!お前も、ユウに釘を差されただろう?どうして言う事きけねーの?」

 子供を叱る様な仕種で覗き込まれて、ボクは返す言葉も無く俯いた。全面的に自分が悪いので、言い訳も出来ない。

「…っとに。勘弁してくれよ。お前に何かあったら、俺がアイツに怒られんだよ。」

怒られる?
一慶が、祐介に??

「へぇ─…。」

それは面白い。
一度は見てみたい光景だ。

「そういう處ろにだけ、敏感に反応するな!大体、昨夜も多少無理をさせているから、俺は今、猛烈に分が悪いんだ。」

 ボヤく一慶の言葉を聞いていたら、二人の関係が何と無く見えた気がした。…つまり。今のところアドバンテージは祐介にあるという訳だ。

面白い、実に愉快だ。
思わずプッと吹き出すと、一慶はボクの両頬をムギュッとつねった。

「お前~!呑気に笑える立場か!? 何だ、この目は?? ちょっと目を離すと、このザマだ。勝手な真似ばかりしやがって…!! もう独りで居るな!仕事が増える一方だ!!」

 ──叱られた。
確かに、調子に乗り過ぎたかも知れない。

ボクは今、教えを乞う立場だ。
一慶と居ると、ついリラックスしてしまっていけない。