真夜中に異性の部屋を訪ねるなど…そんな非常識は、出来れば控えたかった。

だが、極めて緊急性が高い用件なのだ。
早急な対応が必要なのだ──!

 ボクは、何度もノックした。
なのに、扉が開く様子は無い。
やむを得ず、硬く握った拳で、より強く叩いてみた。

 ドンドンドン!ドンドン!!

やはり応答が無い。
物音がしたと思ったのだが…もしや、まだ帰っていないのか?

それとも、とうに眠ってしまったのだろうか?

 これ以上は、無駄なのかも知れない。

だがもう、他に手立てが思い付かなかった。
無情に立ちはだかる扉に向かって、沸き起こる不安ごと拳を打ち付ける。

 冷静に考えれば、他にも方法があったのかも知れない。

だが…この時のボクは、完全に思慮深さを欠いていた。兎に角もう、力の限り扉を叩き続ける。

 お願い。お願い、ここを開けて!

ドンドンドン…ドンドンドン!

破らんばかりに扉を叩き続けた拳が、ヒリヒリと赤味を帯びて痛む。

「あぁ、はいはい。今開けるよ。」

 何度目かのノックで、漸く面倒臭そうな応対の声が聞こえた。

良かった、やはり帰っていた!!
扉が開け放たれた途端…

「遅いよ、一慶っ!」

 感極まったボクは、勢い余って彼の胸に飛び込んだ。見上げた視線の先には、呆気に取られる一慶の端正な顔がある。

「何だ、お前。今夜も泊まるつもりか?」
「違う!困っているんだ、助けて!!」

 片手で左目を押さえながら、ボクは精一杯懇願した。一慶は、怪訝に首を傾げる。

「助けるって…どうかしたのか?」

「うん、実は──」

 そう言って、左目を覆っていた手を、ゆっくりと外す。途端に、一慶の片眉が急角度に吊り上がった。

「お前っ…何だ、その目は!?」

それきり、彼は絶句してしまう。

 …無理もない。

ボクは今、左目だけが《金色》に輝いているのだから──。