「母屋まで少し歩くぞ。お前…本当に大丈夫か?」

ぼぅっとしていると、一慶が気遣わしげに眉根を寄せた。

「…うん。大丈夫だよ。」

 何とか作り笑いを返してみる。
気後れしている自分を奮い立たせながら、ボクは二人の後に続いた。

 とにかく、広い。
庭だけでも、とてつもない規模だ。
紅い太鼓橋が掛かる池には、一匹数百万円はするであろう錦鯉が、悠然と回游している。

池の東側には、水車小屋まであった。
夏の緑が眩しく輝いている──。

 行く途中。数人の庭師が仕事の手を休めて、ボクらに会釈をした。

大きな藤棚。
色とりどりの花が咲き乱れる小路。
深緑を纏った松の大木も、遠景に映える築山も…全てが、見事な調和の中に在る。髄を凝らした、それは美しい庭園だ。

非日常的な空間に立たされて、ボクの緊張も頂点に達する。