深夜11:00、西の対屋で──。
控え目に扉をノックしながら、ボクは『彼』が出てくるのを待っていた。

コンコン…!

 暫く待ったが、応答が無い。
この時間なら、或いは帰っているかも知れないと思ったのだけれど…彼は、まだ戻らないのだろうか?

 ドアに耳を当てて、中の様子を探る。
時折、『カチャカチャ』『パタン』と生活音が聞こえるから、中には居るようだ。

 コンコンコン!

今度は、少しだけ強めにノックした。
扉が開くのを、辛抱強く待つ。
この事態を何とかしてくれるのは、もう彼しかいない。

会えなければ万事きゅうすだ。
突然の出来事に、ボクは半ばパニック状態に陥っていた。

 ──話の発端は、遡ること二時間前のこと。
ボクは、瞑想室で『自主トレ』をしていた。
その結果が、まさかこんな事になるなんて思ってもみなかったのだ。

 解っている。
ボクが、いけなかったのだ。
祐介にも止められていたのに、ちゃんと言い付けを守らなかったから…。

 充分に反省はしている。
自分なりに、様々な解決法を試してもみた。
だけど状況は変わらない。
どうする…どうすれば良い?

 悩みに悩んだその時。
真っ先にボクの脳裏に浮かんだのが、彼だった。

そうだ。
彼ならきっと何とかしてくれる!

思い立つが早いか、ボクは西の対屋に向かって駆け出していた。

 そうして今、部屋の扉の前にいる…。