その日の夕食は、更に閑散として寂しかった。食卓には、ボク以外誰も居ない。

一慶も帰って来ないし、紫も姿を見せなかった。

 仕方が無いので、一人侘しく食事を済ませる。それから、たっぷりと時間を掛けて入浴し、昨夜からの疲れを癒した。

 とぼとぼ歩く長い回廊。
私室に戻ると、紫は既に帰っていて、布団の中で気持ち良さそうにスウスウ寝息を立てていた。

 長い髪が、まだしっとり濡れている。

恐らく、食事も摂らずに入浴し、そのまま眠ってしまったのだろう。キュッと拳を握り締めて寝入る紫は、幼い少女の様に、愛らしく無防備だ。

白い肌。長い睫毛。

蕾の様な唇は微かに笑みを浮かべていた。
辛い体験をした後の開放感からか、本当に安心しきって眠っている。

あんなに厳しい修行を、自らに課しているのに…見れば見る程、無邪気で幸せな寝顔だった。

 そっと寝室を抜けたボクは、又しても時間を持て余してしまう。

さて、これからどうしよう…?
眠るには未だ時間が早いし、昼寝をしたから、あまり眠くもない。

 気が付けば、ボクの足は自然と瞑想室へ向かっていた。祐介には止められたけれど…やはり、不安な気持ちは拭い去れない。

明日だけは、絶対に失敗出来ないのだ。
その重責と緊張感とで、どうしようもなく心が波立つ。

 独りで居ると、余計な心配ばかりが募ってしまって、何かせずにはいられなかった。

 体の負担にならない程度に──少し。
ほんの少しだけなら、構わないだろう。
幸い引き止める人も居なかったので、ボクは『ほんの少しだけ』のつもりで、修練を始めた。

 この後。自分の身に、どんな禍いが振り掛かるのか…。

この時のボクは、知る由もなかった。