それから二時間程、ボクと祐介は瞑想室で修練を続けた。必要な術の他に、二種類の《九字切り》も習った。

 ちょうど調子が乗って来た、その時。
突然、祐介が言った。

「今日は、この辺にしておこうか。」
「え、もう?だってまだ…」

 ポカンとするボクを尻目に、サッサと切り上げようとする祐介。もう少し修練を続けたくて、ボクは食い下がった。

 裁定会は、明日だ。
不安を残したまま当日を迎えたくない。
だが祐介は、そんなボクの心理を、ちゃんと見抜いている様だった。

「薙…。金目になっている時間は、一番心身に負担が掛かる。今のキミの状態でも、良く保《モ》って二時間が限界だ。」

「たった二時間?…それくらいしか、金目でいられないの!?」

「そう。体調が良くて尚且つ、心理状態も良好なら長く保って二時間。通常なら、せいぜい三十分から一時間が限度だろう。」

 ──つまり。
その制限時間内で、例の秘術を成就させなければならないという事か…。

出来るかな?
何だか、益々不安になって…

「薙。」

独り悶々と考えに沈んでいたら、見透かした様に名前を呼ばれた。

「は…はい?」

 恐る恐る返事をすると、祐介は、ふと渋面を解いて云う。

「キミが何を考えているか、僕には解るよ。だが、どんなに頼まれても、今日はもうこれ以上の修練は出来ない。明日に備えて、少しは休みなさい。カズにも、ちゃんと言っておくよ。キミの無謀さは、僕が一番良く知っているからね。我が儘を言われても真に受けない様に、カズにも釘を差して措く必要がある。何だかんだと、彼はキミに甘い。」

「う……。」

 何と云う鋭利な御言葉。
ボクがやらかしそうな事など、彼は全てお見通しの様だ。

 それから間も無く──。
祐介は病院へ向かった。
出勤日では無かったが、やり残した仕事があるらしい。

 紫は、相変わらずだ。
本堂に篭ったきり、出て来ない。
こんな時に限って、遥や烈火もいない…。

急に時間を持て余してしまったボクは、暇潰しと称して、独り、午睡を託(カコ)つのだった…。