結局──。

祐介と《五之巻》の秘術の修練を始めたのは、午後一時を大幅に過ぎた頃だった。

 薄暗い瞑想室に二人きり。
ボク等は、向き合う様に端座する。

「先ずは《金目》になって見せて。」

 乞われて…昨夜の成果を披露した。
一度、目を閉じ意識を集中する。

『月を飲む』イメージも、それを『小さく凝縮する』までの流れも、今では一瞬の祈りで到達出来る。

 …程無く、ボクの目に変化が表れた。
再び目を開くと、完全に金色に変わった瞳で、祐介を見上げる。

「へぇ…これは、なかなか…。」

祐介は、感心した様に溜め息を吐いてボクを眺めた。

「あぁ、もっと良く見せて。前回、《金目》に成った時は、遠くて良く見えなかったんだ…。」

 囁く様な声と共に、細い指がボクの顎を捕えて、クイと引き上げる。

…それは、外国映画のキスシーンの様な仕草だった。あまりに自然で、抵抗する間も無い。

 祐介は、目を細めて《金目》を覗き込みながら呟いた。

「大したものだ…。短時間で、良くここまで仕上げたね。完璧にコントロール出来ているよ。」

「え…ホント?」

「あぁ。キミの場合、金目にさえ成れれば、後は『型』に填めるだけで、大半の術をこなせる筈だからね。取り敢えず今日は、例の術に必要な《印》と《真言》だけを修練しよう。」