ボクは改めて、本尊を見上げた。

威容を湛える、不動明王。
阿吽(アウン)の牙を噛(ハ)む、憤怒(フンヌ)の相。
右手に剣、左手には索(サク)を持ち、燃え盛る火炎を背に、静かに結跏趺坐(ケッカフザ)している。

「──凄いね、お不動様。特に、あの目。生きているみたいだ…」

「玉眼というんだ。水晶が填め込まれている。」

「目が水晶なの?」

「あぁ。お前の《金目》に似ているだろう?透明で…角度を変えるとキラリと輝く。」

「よく解らないけれど…。ボクの目は、あんなに怖くないよ──多分。」

 曖昧な返事をすると、背後でクスッと忍び笑いが聞こえた。

「不動明王が怖いか?」
「少しだけ。」

正直に答えると、頭をポンと撫でられた。

「それが『畏(オソ)れ』だ。本当に尊いものに対して感じる、人間の本能的な感覚だよ。」

一慶は、言う。

「お前の金目を初めて見た時。正直、俺も畏(オソ)れを感じた。」

「…うん、やっぱり気持ち悪いよね。」
「そういう意味じゃない。綺麗だった。」
「え…?」

 ボクが訊き返すと、一慶は少しだけ声を潜めた。

「あんな綺麗なものは、他に見た事が無い。コイツを、これから俺が護るのかと思ったら、嬉しくて体が震えた。」

「一慶…。」

「四天になれて良かったと、あの時、初めて思ったよ。俺の『護るもの』が『お前』で良かった。」

 胸の奥が、ドキンと撥ねた。
そんな言葉が返って来るとは、思わなかったから…。

思わず振り返ろうとした途端──

「こっち見んな。気が弛むだろう。」

両手で頭を挟まれて、強引に前に向けられてしまう。

「今夜、見れると良いな?お前の金目。」
「うん。頑張る。」
「よし。じゃあ、始めるぞ。」

 背中を、バンと叩かれる。
だがそれは、痛みよりも寧ろ、優しさを感じる行為だった。

 何故だろう?
一慶が側に居ると思うだけで、こんなにも安心する。その手の温かさが、ボクの勇気になる。

 だから…。
ボクも、やれるだけの事をしよう。
この温もりに応える為にも。

 ──そうして。ボクは、再び祈り始めた。