すると。
まだ何処かボーっとしているボクを見兼ねた様に、一慶が言った。

「疲れただろう?休憩の序(ツ)でに夕飯にしよう。流石に身が保(モ)たない。」

「もう、そんな時間?」

 ボクの言葉に、一慶はモバイルフォンの画面表示を見て言う。

「丁度、七時十分を回ったところだ。もう、八時間近くも祈っている。」

 八時間?? たったそれだけ?
一心に祈っていたから、時間の感覚が無い…。

「初めてにしては、良く頑張ったな。立派な《三昧耶行(サンマヤギョウ)》だよ。」

 三昧耶(サンマヤギョウ)とは、修行の範疇に深く入り込んだ状況を言う。

だが──
ボクは、そこまで到達出来たのだろうか…?
正直なところ、良く解らない。
見上げれば明かり取りの天窓から、澄んだ星空が覗いていた。

「…すっかり夜だね。」

 なのに──。
ボクは未だ《金目》を手に入れてない。
こんな調子で、間に合うのだろうか?

 また少し、焦りが出始めた…その時。
一慶が、思いも掛けない言葉をくれた。

「もう直ぐだよ。」
「え?」

「かなり近い線まで来ていると思う。祈る呼吸も掴めた様だし…あと一息ってところだろう。」