それから。
一体何時間、そうして其処に座しただろう?

《金目》が完全に開くまで…そう思っている内に祈りが遠のき、ボクの頭は、もうすっかり飽和状態になっていた。

 弛んだ気持ちの間隙を突いて、強力な睡魔が襲って来る。奥歯で頬の内側を噛み、どうにかそれを退散させるが、睡魔は何度となく現れては、ボクを誘惑した。

 …眠い…もう限界だ

グラリと頭が下がる──そこへ。
不意にポンと肩を叩かれたので、ボクは慌てて飛び起きた。

「おい、薙?聞こえているか?」
「え…っ!?」

 驚いた弾みで、結んでいた印が解ける。

我に返り、ふと見上げると、長身を折り曲げて覗き込む一慶の顔が間近にあった。鼻と鼻がくっつきそうな位置で視線が交わり、ボクは思わず声を上げる。

「ぅわ!」

 思いの外大きな声が出て、そのまま腰が脱けた様に、ヘタリ込んでしまう。それを見た一慶は、不機嫌に双眸(ソウボウ)を眇(スガ)めて言った。

「お前…そんなに驚かなくても…」
「だって、顔が近いから!」

「近けりゃ何だよ?別に捕って食おうって訳じゃなし。本当に失礼な女だな。」

 確かに、過剰反応だったかも知れない。
顔を覗かれるとは思わなかったので、すっかり油断していた。

気を付けなければ…。
無防備な寝顔を晒すことだけは、もう二度と御免である。

「休憩だ。さっきから、何度か声を掛けていたんだがな。聞こえなかったのか??」

「ゴメン…聞こえなかった。」
「やれやれ。」

 一慶は呆れた様に溜め息を吐いている。
気まずさを取り繕おうと、ボクは慌てて立ち上がった。

その途端、足が縺(モツ)れて前のめりになる。

「あ!」

 転ぶ寸前。
一慶の腕が伸びて、ボクを支えた。

「──っと、おい。危なっかしいな。急に立つなよ、捻挫するぞ?」

「そうだった、ゴメン。」

 予(アラカジ)め注意を受けていたのに、忘れていた。

長時間正座した後は、気を付けて立たないと、骨折する事もあると…。

 情けない程、フニャフニャになっているボクを見て、一慶は『仕方ないな』と肩を竦《すく》めた。ボクの腕を取り、ゆっくりと立たせてくれる。

「手、放すぞ。立てるか?」

「うん、大丈夫。」

 そうは言ったものの、まだ少し、足先の感覚が無かった。…フラフラする。