焦れる様な時間が続いた。
ボクの観想(カンソウ)は、とうに破綻している。もう祈るどころの話じゃない。

 悶々としている處ろへ、不意に名を呼ばれ…恐る恐る眼を開けた。
一慶が、小さく嘆息して言う。

「少し休もう。」
「え…でも、ボクまだ全然…。」

言い掛けて、ゴクリと言葉を飲み込む。

 もしかして、見放されちゃったのだろうか…?

そう考えたら我ながら情け無くて、泣きたくなった。鼻の奥がツンと痛み…同時に、眼窩.ガンカがじわりと熱くなる。

 そんなボクに、一慶は、いつもの調子で笑い掛けてきた。

「お前、腹減ってない?」
「え?」

 …そう言えば。
今日はまだ、朝食も摂っていない。
そう思った途端、腹の虫が情けない悲鳴を上げた。

「うん、お腹空いた…。」

「だろう?そうじゃなくても寝不足気味なのに、これじゃあ祈るものも祈れない。」

「あぁ、うん…そ、だよね。」

 笑おうとして顔を歪めた途端、目の端からホロリと涙が溢れた。

情け無い──本当に。
上手くいかないから泣くなんて、まるで子供じゃないか。みっともなくて、また涙が溢れる。

 手の甲でグイと目元を拭うと、一慶がボクの髪をクシャリと混ぜて言った。

「泣くなよ、バカだな。最初からサクサク進むなんて、俺だって思っちゃいない。」

「うん。」
「焦るな。まだ始まったばかりだ。」
「……うん。」

 ぶっきらぼうな物言いなのに、一慶の声が言葉が、傷付いた心に温かく沁み渡る。抑えていた気持ちが、涙と一緒に溢れてくる。

「だから、泣くなって。昨日も言っただろう?ガチガチになっていると、ロクな事にならないって。そもそもお前は、最初から飛ばし過ぎだ。祈りに、気合いは必要無い。力を抜け。」

「…わかってる。」

「解っているなら尚更だ。これまで、お前は何でもそつなく消化(コナ)して来ただろう?だから、少し出来ない位で、簡単に落ち込んでしまうんだよ。そもそも、修行もせずに法力を振るえる方が、奇跡なんだ。ここから先は、行者として一歩一歩前に進めば良い。天才には挫折が必要だ。」

「…うん。そうだね。」

 こんこんと諭されて、漸く自身の愚かさが見えて来た。

何て恥ずかしいんだろう、ボクは?
神子だからと言って自惚れていた。
もっと謙虚さを持たなくては…。