「…まぁ、冗談はさておきだ。とうとう見付けたんだな。それが、お前の答えか?」

「あ、そうだ──これ!」

 言われて、ハタと気が付いた。
ボクは一冊の本を、確り腕に抱き締めて立っていた。

…どうやら昨夜は、このまま、本を胸に抱いて眠ってしまったらしい。

 抱えた古書の表紙をそっと覗き込むと、そこには流麗な筆文字で《六星天河抄 五之巻》と書かれてあった。

…経典の中に見つけた、大切なヒント。
それを具現化させる為の《修法》が、この中に詳しく説かれてある。

 昨夜これを見つけた時は、本当に興奮が収まらなかった。

『これで、皆を助けられる!』

そう思った途端、つい気が緩んでしまったのだ。疲れと共に強力な睡魔が襲って来て──そこから先の記憶が途絶える。

 感慨無量で表紙を撫でると、いつの間にか、ボクの傍ら一慶が立っていた。ふぅんと鼻を鳴らし、腰に手を当てる。

「天河抄五之巻か、《天子の章》だな。」
「…《天子の章》?」

「神子だけが使える術が書かれた『最も特殊で、最も神聖な巻』だ。確かに、お前にしか読み解けないかもな、これは。」

「そういうものなの?」
「そういうもんだよ。」

 一慶は、真顔で頷いた。

「文字も読める。意味も解る…だがそれだけでは、ここに書いてある修法(スホウ)は行えない。」

「どうして?」

「五之巻の術は、《金目》じゃなければ活現(カツゲン)しないんだ。それが《天子の章》と呼ばれる所以ユエンだよ。」