「だが、お前をベッドまで運んでやったのは事実だからな。眠り込んで『お姫さまだっこ』されている自分を想像してみろよ。噛み付く元気も無くなるだろう?」

くつくつと肩を揺らす一慶に、ボクは反撃のチャンスまで失った。

 …甲本薙、一生の不覚!!

悔しさと恥ずかしさを堪えて、もそもそとベッドから降りる。内心、穴があったら入りたかった。

「それで…昨夜、一慶は何処で寝たの?」
「俺は彼処(アソコ)。」

 …そう言って。
彼は、黒皮のソファを顎の先で示す。

「彼処(アソコ)って…。」
「一緒に寝たかったか?」
「誰が!」

「だったら、気にするなよ。この貸しは、後で三倍にして返して貰うからな。」

「三倍返し!?高過ぎるよ!」

「充分、妥当だ。何しろ、朝まで寝かせて貰えなかったんだからな。お前、一度燃えると、止められなくなる性質(タチ)だろう?見掛けに寄らず、激しい女だな。」

「へっ…変な言い回しをするなっ!」

「はいはい。冗談だよ、勿論。」

 そう言いながら、大欠伸(オオアクビ)をする一慶。

首や肩を押さえて、コキコキ鳴らしている處(トコ)ろを見ると、嘸(サゾ)や寝心地が悪かったのだろう。…ボクに、ベッドを譲ってくれたから。

 申し訳無さに、ふと押し黙ると、一慶は、口角の片端を吊り上げて意地悪く言った。

「そうだな…手っ取り早く、報酬を頂くという手もあるか。」

「──え!?」