微かに聞こえる小鳥の囀ずり。
頬に触れる心地好い絹の肌触り…。
挿し込む陽射しの眩しさに、ボクはゆっくりと目を開いた。

 いつの間にか、見知らぬベッドの上に居る。綿のシーツと羽枕。柔らかいブランケットが、ふんわりと体を包み込んでいた。

 …此処は何処?
視界いっぱいに展がる、見覚えのない天井クロスを、暫し茫然と眺める。

「起きたか。良く眠っていたな。」

 この声は──

「一慶!? 何故ここに??」
「何故って…ここ俺の部屋だもん。」

 その言葉に、滞っていた記憶が蘇った

そうだ。
昨夜は、一慶の部屋を訪ねたのだ。
…もしや、あのまま寝てしまった?

 ボクは慌てて上体を起こした。
壁時計は、既に午前十時を回っている。

小さなテーブルの上には、昨夜読み漁った本や経典が、どっさりと山積みになっていた。

「ボク…昨夜、あのまま?」
「あぁ、お泊りしちゃったな。」

 そうなるのか、やはり??
それはマズいぞ、乙女の一大事だ!

「…心配しなくていい。氷見には、事情を話してある。昨夜、東の対に主が不在だった事も、巧く取り繕ってくれる筈だ。」