不思議な人──

心を覗かれた訳でも無いのに…何故、ボクも知らないボクの感情を、正確に読み取る事が出来るのか?

 ボクは、一度深呼吸してから、本当に思い付くまま話し始めた。

「呪殺は、明らかな殺人だ。勿論、それを肯定するつもりはないよ…けど。このまま真織の行力を剥奪して、彼を廃行者にしてしまったら…真織は《狐憑き》という自分の特性を否定されたまま、この先もずっと生きていかなきゃならない。」

「そうだな。」

「ボクは、《狐霊遣い》という能力を否定的に捉えたくない。寧ろ、それを生かす方向で、相応の償いをさせてやりたいんだ。なのに、それをどう『形』にしたら良いかが分からない。」

「…言いたい事は、大体理解した。」

 そう言うと──。
一慶は、椅子の背持たれに長身を預けて、足を組んだ。

「お前には行者の基礎知識が、そっくり抜けている。文字通り、ド素人だ。力はあっても引き出しが足りない。今のままでは、話も聞いて貰えないだろう。」

 …その通りだ。反論の余地は無い。
ボクは行を積んでいない上に、基本的な知識が無い。

「お前にも、その自覚はある様だな?なら、発想を変えてみてはどうだ?」

「発想を変える??」

「そうだ。まっさらな魂魄だからこそ、書き込める情報も無限にある。寧ろそれが、お前の強味だろう?足りない知恵は、補えば良いんだ。もっと単純に考えろ。」

 …言い終わるや否や。
一慶は、徐ろに煙草を揉み消して立ち上がった。そのまま壁の書架の前に立ち、何やら物色し始める。

「薙、こっちに来い。」

 呼ばれて素直に隣に並ぶと、彼は書架の二重棚をスラリと横に滑らせた。

奥の書棚には、端から端まで、ギッシリと同じ背表紙の本が並んでいる。

更に棚を左右に開くと、その裏側にまで、数え切れない程の蔵書が詰め込まれていた。