カシャンと蓋の閉まる音がして、不意にジッポーの炎が掻き消えた。長い指に挟まれたマルボロの先から、青白い煙が立ち上っている。

 一慶は、吸い込んだ煙を細く長く吐き出してから言った。

「…で?何か具体策はあるのか??」

 煙の向こう側から、細めた視線を投げられたけれど──ボクは、首を横に振る事しか出来なかった。

考えに考えたが、結局何も思い付かなかったのである。

「だからそれを相談に来たんだ。この問題を解決するには、仏教の専門知識が必要だ。だけどボクには、圧倒的にそれが足りない。北天である一慶なら、ボクに足りないものが何なのか、直ぐに判断出来るだろうと思った。今ボクに必要なものと、必要でないものを…見分けて欲しいんだ。」

「成程ね。」

 小さく頷くと、一慶は思案する様に睫毛を伏せる。

「一個人としてのお前の気持ちは良く解る。ごく当然の反応だろうし、俺もそうあって欲しいと思うよ。だが今回ばかりは、状況が違う。お前は、首座としての判断を求められているんだ。『精神論』だけじゃ解決しない。」

「情状酌量の余地は無いって事?」

「そうだ」と答えると、一慶は吸い込んだ煙を、短く吐き出した。