「で?俺に何を相談したいって?」

 椅子から軽く身を起こすと、一慶は少し前屈みになって、ボクの顔を覗き込んだ。

 真っ直ぐ見据える視線の強さに、一瞬、ドキリと胸が跳ねる。真顔になった途端、綺麗な顔立ちが際立って…妙に意識してしまう。

この人は狡い。
狙っていない分、逆に始末が悪い。

 ボクは気持ちを切り換える様に、小さく咳払いをして言った。

「ボクも紫から詳しい話を聞いたよ。でも聞けば聞く程解らなくなるんだ。今回の件──ボクは、どうしても真織を裁く気になれない。」

「迷っているのか?」
「ううん。ボクの答えは決まっている。」

 ふぅんと小さく鼻を鳴らすと、一慶は、煙草のフィルターを親指でピンと弾いて、アッシュトレイに灰を落とした。

「お前…真織を処分しないつもりか?」
「うん。」

「だが、それじゃあ他の《裁定者》が納得しない。何しろ《呪殺》は重大な盟約違反だ。それ相応の罰を与えるのが、今までの六星一座の在り方だった。烈火や篝は味方してくれるかも知れないが…。他の裁定者に否決されたら、それまでだぞ。《裁定》は、多数決で決まるからな。」

「それは解っている。でもボクは、この件で誰かを裁くのは嫌だ。真織も、玲一さんも、千里さんも…出来れば全員を救いたい。」

「全員を救う?」
「うん。綺麗事かな?」
「さぁ…どうだろうな。」

 溜め息と共に煙を吐き出すと、一慶は、短くなった煙草をトレイの中で揉み消した。そうして、徐ろに二本目を取り出す。

 カチン!と特有の音を立てて、ジッポーの蓋が開いた。大きく揺らめく炎を煙草の先で絡め取る。

 僅かに顔を傾けるその仕草が、いちいち様になっていて…不覚にも一瞬、見惚れてしまった。

黙っていれば、こんなに佳い男なのに…。
勿体無い。

 この一大事を前に、そんな事を考えているボクも、どうかしていると思うのだが…。