「元々、この『受刑者連続変死事件』は、八年前に警察庁から依頼された案件だったんだよ。全国の刑務所で、受刑者の不審死が相次ぎ、ニュースやワイドショーにも取り上げられた。そこで、警察庁が動いたんだ。この一連の現象に、カルトが関わっている可能性は無いか、調べて欲しいという依頼だった。…だが、予想以上に捜査は難航した。本当だったら、このままお宮入りになっても可笑しくなかったんだ。」

「どうして?」

「手掛かりが無かった。呪術的な痕跡はあったが、どの《系統》の術なのか、どうやって施したのか…それを特定するまでに、二年も掛かったんだ。《狐霊》が絡んでいると判明してからも、当該の術者を割り出すまでには到らなかった。」

 ──そう云うと。一慶は少しの間、何かを思い出す様に遠い目をした。

「一座が事件の捜査をする際、チームを組んで動くって事は、もう知っているだろう?」

「うん。」

「八年前…俺も祐介も、未だ駆け出しのぺーぺーでさ。担当メンバーに抜擢されて、変に気合いが入っていた。本格的な調査に、浮足立つ事も多くて…まぁ、ヘマもしたけど。それをフォローしてくれたのが、真織さんだった。」

「同じチームだったの?」

「まぁな。狐霊絡みの事件だし、その点でも真織は適任だった。まさか事件の裏で、痕跡を消していた張本人だとは思わなかったけれどな。」

「真織が事件を撹乱してたって事?」

「あぁ。立場上、容易い事だったろう。俺達は、あの人に全幅の信頼を置いていたし…実際、現場での真織は凄かった。とても、裏で呪殺を繰り返しているとは思えないくらいに…。」

 そこまで云うと、一慶は、ふと辛そうに顔を歪めた。信頼を裏切られた『痛み』が、まだ生々しく残っているのが解る。

「恐ろしく時間が掛かったが…お前のお陰で、漸(ヨウヤ)く解決しそうだな。」

「ボク、何の役にも立っていないよ?」

「いや。お前が居たから、真織を焙(アブ)り出せたんだ。その上、紫を保護する事も出来た…上々だよ。」

 そう…なのだろうか?
あまり貢献していない気がするのだけれど。