中でも驚くべきは、書架を埋め尽くしている沢山の本である。長年のコレクションであろうそれ等は、図書室の様に、整然とアルファベット順に並んでいた。

 静かに流れるショパンのピアノ曲。

窓から見える夜の庭園が幻想的で…宛ら、ホテルの一室の様である。

 だけど──。
この屋敷は、こういう所が少し変だ。
外観は純和風なのに、客室以外の個室は、全て洋室に改装されている。

住人が、自身の生活スタイルに併せて好き勝手にリフォームをしている所為で、一室一室の内装に統一感が無いのだ。

個性と言われれば、それまでだが──。
とても、同じ屋根の下にある空間だとは思えなかった。

 そわそわしながら、通された彼の部屋。
勧められるまま黒いソファに身を落ち着けると、一慶は慣れた仕草で珈琲を煎れてくれた。

 向かい合って座るボクに、醒めた一瞥を投げるや、煙草を取りだし、徐ろに燻らせる。

「お前さ。相手が俺だから良い様なものの…ああやって見境なく拳振り上げるのは、止めろよな?気の強い女は嫌いじゃないが、強気と暴力とは解釈が別だぞ?」

「一慶が、変な事ばかり言うからだろう!」

「あの程度の冗談に、いちいち過剰反応するなよ。聞き流せ。」

「無理!」

 あんな冗談、聞き流せるものか。
夜這いだなんて、人聞きの悪い──!

「真剣な相談なのに…。」

 ぶつぶつ呟くと、一慶の表情が不意に柔らかくなった。