採血を終え、荷物をまとめてロビーに降りると、やけに眼を牽く二人組が視界の端に見えた。

「薙~っ!こっちこっち!」

小椋苺が、ボクに気付いてブンブンと手を振る。
…恥ずかしい。大声を出さなくても、厭になる程、そうと判るのに。

 今日の苺は、輪を掛けて華やかだった。
全身白いフリルで覆われた、デコレーションケーキの様なドレスに身を包んでいる。病院のロビーで一際異彩を放つ甘ロリ少女は、レースの手袋を嵌め、真っ赤なハート型のバッグを持っていた。まるで、童話から抜け出したお姫様のようである。

 豪華な縦ロールの巻き髪に、リボンのカチューシャを付けての重装備。
バッグに合わせた、真っ赤なエナメルの靴。
充分過ぎるほど目立つその姿に、携帯カメラを向ける者まで居た。

 一慶は、其処から随分離れた場所に立っている。

苺の様に心が読める訳ではないけれど、彼が今どういう心境なのか手に取るように解った。あれと一緒に、ずっと待っていたのかと思うと…少しだけ同情する。

「薙~!よかったね、退院出来て!」

 苺がボクの首に飛び付いて来た。
ボクは少しよろけながら、彼女を受け止める。

「ありがと…その。か、可愛い服だね。」

「いやぁん。やっぱりそう思う~?──ほら!見なさいよ、一慶!解る人には解るのよ、この可愛いらしさがっ!」

 眼を吊り上げて振り返る苺に、一慶は肩を竦めて、素方を向く。
険悪な空気に、ボクは狼狽えた。

「あ、あの、ボク。薬貰わないと…。」

 荊の様に絡み付く苺の体を引き剥がそうと、もがいていると、一慶がポツリと言った。

「薬は受け取ってある。治療費も支払い済みだ、行くぞ。」

「え、治療費も?!それは不味いよ、自分で払います!!」

「気にするな、大した額じゃない。経費で落とす。」
「け、経費って…」

まるで取り付く島が無い。
言葉少なに答えると、踵きびすを返してサッサと出て行く一慶。

 足が早い──否。そもそも足が、長いのか。
ふと見渡せば、待合室の患者が洩れなく全員此方を見ていた。

痛いほどの衆目を浴びながら、ボクは急いで彼の後を追う。とにかく一刻も早く、この場から逃れたい。

 顔を伏せてロビーを走り去ると、背後で苺の頓狂な声が上がった。

「ちょ…!何よ、アンタ達!!アタシを置いて行かないでよぉ!」