「多分そう。兄さんは、お母さんを殺して、呪殺を止めようとした…だけど。そんな事をしなくても、お母さんは直に死んでしまうと、僕は知っていた。だから、兄さんの術を全て撥ね返したんだ。兄さんは、もうそんな事しなくていい。お母さんの罪を被って、呪殺を続けたり…そんな酷い事しなくても良いんだ。」

「──ずっと離れに篭っていたのは、真織を守る為でもあったんだね?」

 紫は、コクンと頷いた。

「兄さんは責任を感じていたと思う。自分さえ居なければ、お母さんが《狐憑き》になる事もなかったと。言葉には出さないけれど、いつも自分を責めていたんだ。《粛正》を引き継いだのは、警察の目を自分に向けさせる為だよ。受刑者の連続不審死については、既に公安が動いていたからね。」

「だから真織は、一座を守る為に、闡醍として破門されるつもりだった…。」

 ボクが呟くと、紫は小さく頷いた。

「兄さんは、お母さんを修羅として葬りたくなかったんだろうね。だけど、どんな事をしても無駄なんだ。殺人の罪は、永遠に消えない。喩え、この世の生を終えても…地獄の果てまで附いて廻るんだ。」

 紫は、ボクの肩にギュッと頭を埋めて言った。

「僕が離れに居た方が、兄さんにとっては、幸せなんだと思っていた。…兄さんは…僕を嫌っていたから。」

 紫の体が震えている。

可哀想に…。
紫も真織も、千里さんも玲一も。
全ての人が可哀想だ。

 ボクは思わず紫の体を抱き締めた。
体から仄かに石鹸の香りがする。

子供みたいだと思っていたけれど、紫は、子供なんかじゃない。大人の事情も、ちゃんと理解していた。

「兄さんを助けて、薙。」
「…紫。」

「悪いのは兄さんじゃない。お母さんや、お父さんでもない。誰も悪くなんかないんだ。」

「解ってる。」

 紫に言われるまでもなく──。
とうに、ボクは気付いていた。

何とかしなくてはならない。
六星行者が背負う哀しい負の連鎖を、ボクが止める。必ず──必ずだ。