「千里さんは何故、呪殺の標的を、受刑者に特定したんだろう?」

 ボクが訊ねると、紫は抑揚の無い声で、こう言った。

「薙は、《黄泉比良坂》を見たでしょう?向坂一門が守る《坂》は、特に重い罪を犯した者…つまり《修羅》達の通り道なんだ。現世では、殺人や傷害を犯した者達が、それに相当するんだよ。」

 …つまり。千里さんは、向坂家の人間として、この世の《修羅》である殺人犯達を、片っ端から殺して回ったのだ。

 やがて。彼女の《粛正》は、全国各地の刑務所にまで波及していく。酷い時には、僅か一ヶ月の間に十五人もの重犯罪者が呪殺された。

殺された受刑者達の死因の多くは、心筋梗塞か自殺だったと言う。

 玲一も真織も紫も…そんな千里を止める為に、様々な方法で《加持(カジ)》を試みた。

「だけど、手遅れだった。お母さんの命の方が…持たなかったんだ。」

「だから真織は、千里さんを離れに連れて行ったの?」