入浴を済ませて部屋に戻ると、パジャマに着替えた紫は、既に寝台に潜り込んでいた。

 えーと…。こういう場合、どのタイミングで布団に入れば良いのだろう?

「お邪魔します」とか「失礼します」とか、やはり一言声を掛けるべきなのか──それとも、無言の方が良いのか??

…いけない…。
緊張してきた。

「紫?」

 声を掛けたが返事が無い。

「…えーと。入っても良い…?」

──すると。
布団から僅かに覗いていた頭が、小さくコクンと頷いた。

 まだ起きていたのか…。
それはそれで気まずいのだが。

いやいやいや。
新婚初夜じゃないんだから、考え過ぎちゃダメだ。

 ひとつ深呼吸をしてから──ボクは、そっと布団に滑り込んだ。隣に体を並べたが、紫は背を向けたまま身動ぎひとつしない。

 余程、疲れていたに違いない。
今夜は、このまま静かに眠らせてあげよう。
灯りを消そうと腕を伸ばした…その時だった。

「消さないでっ!」

突然、紫が獅噛み付いてきた。

「ごめん…暗いの厭(イヤ)なんだ。だから灯りは消さないで。」

「そ、か…うん、解った。」

 意外な言葉に驚いた。

紫に初めて会った時、彼は薄暗い部屋の真ん中に、人形の様に座り込んで動かなかった。てっきり暗闇も平気なのだと思っていたのだが…まさか、こんなに怯えるなんて。

 ややあって。紫は遠慮がちにボクに抱き着き、キュウッと身を縮めた。

「ごめんね。情けないけど暗闇は怖いんだ。離れに居た時から闇が怖くて…良く眠れなかった。なのに、離れから出る事も出来なかった。」

「それは、どうして?」

「だって…彼処には、お母さんが居たから。」

「──そう。」