「どういう事だ、薙!? お前…俺という男がありながら、堂々と浮気するつもりか?!」

 強(シタタ)か呑んだ酒の勢いもあって、烈火の怒りは瞬時に沸点に達した。

『浮気』も何も、あるものか。
ボクは、烈火の彼女じゃない。

「行こう、薙。」

 紫がボクの袖を引く。

「行かせるか!」

激昂した烈火は素早く立ち上がって、紫に飛び掛ろうと身構えた。それを一慶が背後から羽交い締めにする。

「おぁ!? 何すんだ、一慶!離せ!!」

 一慶の腕の中で大暴れする烈火。
まるで捕れたての魚の様に、ピチピチと撥ねている。

「お前、呑み過ぎ。」

呆れ顔で嘆息すると、一慶は烈火を後ろ手に取って捻り上げた。

「い───っで!やめろ、離せ!腕、腕が折れるってんだよ、一慶!!」

烈火の必死の抵抗も、一慶には敵わない。
唯一自由になる両足が虚しく宙を蹴り、文字通り、最後の足掻き見せている。

 …元気だなぁ、二人とも。
蚊帳の外で眺めていると、一慶が苛々と声を張り上げた。

「ボケッとするな、薙!早く紫を連れて行け!! ちゃっちゃと寝かし付けて来い!」

 あぁ…そうでした。

暴れる烈火の悲鳴を背中で聞きながら、ボク等はそそくさと居間を後にした。