──結局。

苺は、あれから姿を現わさなかった。
私室に引き籠ったきり、家人の誰とも顔を会わせようとしない。

 どうやら苺には、暴かれたくない『過去』があるらしい。それを知る紫に、彼女(彼)が会いたがらないのは当然の事だし、仕方が無いのかも知れない。

 暴かれたくない過去──か。
ボクは、ふと真織の顔を思い浮かべた。
今頃、審問を受けている最中だろうか?

ちゃんと、自分の気持ちを伝える事が出来れば良いのだが…。もしかしたら、情状酌量の余地があると判断されるかも知れないし。

 ──その時だった。

「薙。僕、眠くなっちゃった。」

 手の甲でゴシゴシと目を擦り始ながら、紫がボクの袖を引っ張った。
まるで子供みたいな仕草…。
狙っていないだけに、憎めない。

「突然環境が変わっから、疲れちゃったんだね。もう寝ようか?ボクの部屋に行く??」

「うん。」

 二人で居間を出ようとすると、いきなり烈火に呼び止められた。

「ちょ~っと、待ったぁ!聞き捨てならねぇな。どうして二人で、薙の部屋に行くんだよ!?」

 吊り上がった目が怖い。
そうでなくてもキツイ目元が、いつもの三倍も刺々しく見える。

「えーと…。それは、つまり─…」

 巧い言い訳を考えながら目を游がせていると、横から紫が口を挟んだ。

「今夜から僕と薙は一緒に寝るんだ。」

「あ?? 何だって!? 良く聞こえなかったなぁ、もう一度言ってみやがれっ!」

「だーかーらー!僕等は今夜から、毎晩同じ布団で寝るんだよ。解った、バカ烈火!?」

 紫が逆ギレ気味に声を荒げると、烈火は、それ以上の怒声を張り上げて、これに対抗した。

「なんだ、そりゃ?! 聞いてねぇぞ!」

 そりゃそうだ。聞いている筈がない。
──言った覚えが無いのだから。