「…アンタ…もしかして、紫!?」

 苺が、突然すっ頓狂な声を挙げたので、紫はパチパチと目を瞬(シバタタ)かせた。

烈火の脇を擦り抜け、一歩二歩と苺に近付いて…とうとう土足のまま框を上がってしまう。

「その声は…まいちゃん?」

『まいちゃん』?

何を言い出すのか、出し抜けに。
彼女は『おぐら いちご』ではないか。
甘そうな名前と見た目に反して、一撃必殺の猛毒を吐く最強ロリータ少女…それが、彼女だ。

 紫は束の間、苺の顔を凝視した──が。
やがて、確信を得た様に頷いて言った。

「うん。やっぱり、まいちゃんだ。…でも変だな。まいちゃんは、いつから女の子になっちゃったの?」

「ぴぎっ!?」

 踏み潰された蛙の様な叫びを挙げるや、苺はクルリと踵を返して走り去った。

速い…。
もう姿が見えなくなった。

「ねぇ──何が起きたの、今??」

 茫然自失の体(テイ)で紫を振り向けば、彼は釈然としない様子で、こう言った。

「まいちゃん…前に会った時は『男の子』だったんだ。だけど今は『女の子』──。どうして?此方が理由を訊きたいよ。」

『男の子』が『女の子』に変身した?
それはつまり、もしかして──

「やっぱり苺って男なの?!」
「だから、最初にそう言っただろう?」

 呆れ顔で答える一慶。
やはり、彼女は男性だった。
しかも『苺』と書いて『マイ』と読む。

それが『彼』の本名だと知り、ボクの中にある小椋苺のイメージは完全に崩壊した。明かされた真実に、ただ愕然とするばかりである。

 一同に、鼻白んだ空気が漂った──と、そこへ。氷見が、遠慮がちに声を掛ける。

「あの…紫さま。」
「なに?」
「履物は脱いで頂けますか?」

 全員の視線が、紫の足元に注がれる。
紫は悪気の無い笑顔で、『てへ』と笑って誤魔化した。