結局…。紫に押し切られる形で、ボクは彼の同行を承諾した。
鍵を取り戻した一慶は、ホクホク顔である。向坂家には、蒼摩が理路整然と事情を説明して、滞在の許可を貰った。
一見、全てが丸く収まったかに思える。
一方で…ボクは今夜から、紫と床を同じくしなければならないのだ。一番、割りを喰っている気がする。
西の空に夕陽が墜ち…太陽が、天の玉座を月に明け渡した頃。車は、湖畔に佇む姫宮家の別荘に到着した。
蒼摩とは其処で別れたが、その去り際。
突然、こんな事を囁かれた。
「紫さんに他意は無いと思いますが。」
「ん?? …うん。」
「本当に同衾(ドウキン)なさるのでしたら、決して油断なさらないで下さいね。薙さんは、女性なのですから。」
同衾──か。
『男女が同じ夜具で寝ること』を意味した古い言い回しだが…良く、そんな事まで知っているものだ。
その博学振りに感心していると、蒼摩はフッと意味深な笑みを湛えて、こう言った。
「──僕は、子供じゃありませんから。」
蠱惑的(コワクテキ)に目を細める仕草が、妙に大人っぽくて、ドキリとする。
それから慌ただしく「おやすみ」と言って別れたが…その時の彼の微笑が、いつまでも脳裏に焼き付いて離れなかった。
漆黒のトレイルブレイザーが、甲本家の屋敷に帰り着いたのは、夜の九時を周った頃だった。
「ただいま…。」
疲れた足を引き擦る様にして玄関框(ゲンカンカマチ)を上がるボクを、氷見と苺と烈火が出迎えてくれる。
烈火?? ──何故、烈火がいるのだろう!?
今夜も泊まるつもりなのだろうか。
いや、別に構わないのだけれど─…。
近頃、やけに屋敷の人口密度が高い気がする。
「おかえりなさいませ。」
丁寧に迎える氷見の隣で、苺がぶうぶう文句を言った。
「遅い遅い!夕食、終わっちゃったよ!!」
「外で食べて来たから平気。あれ??祐介は?」
「当直よ。ん?誰か他にも居るの??」
すると…ボクの後ろから、紫がヒョイと顔を覗かせた。
「こんばんは。」
「誰だ、お前?」
烈火が威嚇する様に、ズイと顔を寄せる。
ボクにベッタリひっついている紫が、気に入らないらしい。
──と、そこへ。
鍵を取り戻した一慶は、ホクホク顔である。向坂家には、蒼摩が理路整然と事情を説明して、滞在の許可を貰った。
一見、全てが丸く収まったかに思える。
一方で…ボクは今夜から、紫と床を同じくしなければならないのだ。一番、割りを喰っている気がする。
西の空に夕陽が墜ち…太陽が、天の玉座を月に明け渡した頃。車は、湖畔に佇む姫宮家の別荘に到着した。
蒼摩とは其処で別れたが、その去り際。
突然、こんな事を囁かれた。
「紫さんに他意は無いと思いますが。」
「ん?? …うん。」
「本当に同衾(ドウキン)なさるのでしたら、決して油断なさらないで下さいね。薙さんは、女性なのですから。」
同衾──か。
『男女が同じ夜具で寝ること』を意味した古い言い回しだが…良く、そんな事まで知っているものだ。
その博学振りに感心していると、蒼摩はフッと意味深な笑みを湛えて、こう言った。
「──僕は、子供じゃありませんから。」
蠱惑的(コワクテキ)に目を細める仕草が、妙に大人っぽくて、ドキリとする。
それから慌ただしく「おやすみ」と言って別れたが…その時の彼の微笑が、いつまでも脳裏に焼き付いて離れなかった。
漆黒のトレイルブレイザーが、甲本家の屋敷に帰り着いたのは、夜の九時を周った頃だった。
「ただいま…。」
疲れた足を引き擦る様にして玄関框(ゲンカンカマチ)を上がるボクを、氷見と苺と烈火が出迎えてくれる。
烈火?? ──何故、烈火がいるのだろう!?
今夜も泊まるつもりなのだろうか。
いや、別に構わないのだけれど─…。
近頃、やけに屋敷の人口密度が高い気がする。
「おかえりなさいませ。」
丁寧に迎える氷見の隣で、苺がぶうぶう文句を言った。
「遅い遅い!夕食、終わっちゃったよ!!」
「外で食べて来たから平気。あれ??祐介は?」
「当直よ。ん?誰か他にも居るの??」
すると…ボクの後ろから、紫がヒョイと顔を覗かせた。
「こんばんは。」
「誰だ、お前?」
烈火が威嚇する様に、ズイと顔を寄せる。
ボクにベッタリひっついている紫が、気に入らないらしい。
──と、そこへ。