「これ?一慶のポケットからはみ出していたから、僕が預かってあげたんだよ。」

「返せ、こら!」

 奪い取ろうと差し延べた一慶の手を、ヒョイと躱(カ)わす紫。まるで、羽の様に身が軽い。

「返してあげてもいいよ。但し、僕のお願いを聞いてくれるならね。」

「──『お願い』だ?」

 一慶が怪訝に眉根を寄り合わせると、紫は思ってもみない事を言い出した。

「僕も、連れてってよ。」
「は──!?」
「暫くの間、甲本家に泊めて?」

「いきなり何を言い出すんだ、お前は!?隆臣さんは、了承したのか?」

「隆臣には言ってない。」
「なら却下だ。勝手な行動は慎め!」
「嫌だよ。折角、自由になれたのに。」

 ──何やら揉めている。

一慶は紫の申し出を頑として突っぱね、紫は紫で「一緒に行く」と言って譲らなかった。

意地を張り通す二人の話し合いは、いつまでも平行線を辿っている。

 困った…。どうしたものかと手を拱(コマネ)いていると、ちょこちょこと紫がやって来て、ボクの顔を覗き込んで来た。

「ねぇ、薙。一緒に行っても良いよね?」
「う~ん…どうかな…」

 良いのか悪いのか、ボクには判断が出来なかった。言い淀んでいる處ろへ、蒼摩が然り気無く割って入る。

「紫さん。お加減は宜しいのですか?」
「平気。ちょっと眠いぐらいかな?」