「冷たい連中だな!お前ら、誰のお陰で此処まで来れたと思ってんだ!?」

「別に、ボクは電車で来ても良かったんだよ?タクシーという手段もあった訳だしね。」

ボクのこの一言は、一慶に思わぬダメージを与えた様だ。グッと拳を握り締めている。

「あ、そう。そーいう事言うんだ、お前は?少しは慰めの言葉とか無いの??」

「無い。同情の余地も無い。」
「薄情な女。嫁の貰い手、無いぞ?」

  …大きな御世話だ。

「あぁ、面倒臭せぇ。やっぱり行くしかないのか?」

 片手を項(ウナジ)に当てがいながら、一慶は、たった今降りてきたばかりの丘を見上げた。

 この位置から見る離れは、特にも不気味である。

山際に寄り添い始めた夕陽が、紅い光の帯を棚引かせながら、あの朽ち掛けた小さな家屋のシルエットを黒く浮き立たせていて…まるで、ホラー映画の一場面の様だ。

 ふるりと身震いした處(トコ)ろへ、蒼摩が愉快そうに話し掛けて来た。

「では、首座さま。先生は色々とお忙しい様ですし…僕達は一足先にタクシーで帰りましょうか?」

 名案だ。
今から、彼処へ戻るなんて絶対に御免だもの。
蒼摩の冴えた提案に乗り掛かった時…