「それにしても…。一体何処で無くしたんでしょうね?まさか、あの離れに落としたなんて事は?」

「え?」

 蒼摩の呟きに、一慶がピクリと頬を痙攣させた。

「もしそうなら、厄介ですよ?今から離れに戻るとなると、確実に日が暮れます。」

「………。」

「暗闇の離れですか。あの周囲は、わんさと出るでしょうね──霊の類いが。」

「………。」

 一慶は、そうとう凹んでいる様だった。
そこへ追い討ちを掛ける様に、蒼摩が留目の一語を放つ。

「現在、向坂家は取り込み中ですから、《裏山ルート》を案内して下さる方も居ないでしょうし…。ここはやはり《黄泉比良坂》を通って行くしかありませんね。」

「ちょっと待て!どうしてそうと決め付ける!? まだ、離れに落としたとは限らないだろうが!!」

「…そうですね。黄泉比良坂に落とした可能性もあります。だとしたら、実に愉快です。」

「───。」

 一慶は玉砕した。
退引(ノッピ)きならないこの状況に、流石の彼も顔色を失っている。

「勿論その際は、先生お独りで取りに行って下さいね。」

「お前、付いて来てくれないの?」
「行きません。」
「ボクも嫌だ。」