駐車場まで辿り着き、一慶ご自慢の愛車に乗り込もうとした、その時だった。

「ん?あれ…??」

一慶が、急にそわそわし始めた。
焦った様に、ジーンズや上着のポケットをパタパタと叩いている。何故だろう、嫌な予感がする。

「どうしたの、一慶?」
「あぁ…ちょっとな…。」
「──ちょっとなって。」

 明らかに様子が変だ。

「まさかとは思いますが。車の鍵を無くしたりしていませんよね、先生?」

 蒼摩の鋭い指摘に、一慶の顔が僅かに強張った。

「そんな訳あるか、この俺に限って。」

 どうやら図星らしい…。
言葉とは裏腹に、目が宙を泳いでいる。

「無くしたんだね、鍵?」

 ボクが改めて問い質すと、一慶は途端に押し黙った。その沈黙が事実を裏打ちしている。

「信じらんない!馬鹿じゃないの!?」

「お前ね!言うに事欠いて、馬鹿とは何だ馬鹿とは!?」

「馬鹿に馬鹿って言って、何が悪いんだ?!鍵無くしといて、偉そうにするな!」

 ここぞとばかりに言ってやる。
今朝ほど、派手にからかわれた事への意趣返しだ。

 ──そこへ。蒼摩が冷静に割って入る。

「微笑ましいジャレ合いですが、話題を戻しましょうか。本当に無くしたんですか、先生?だとしたら、一大事ですよ。此処まで来て、このオチはちょっと…。」

 盛大な溜め息を吐く《水の星》の次期当主に、一慶が大人げ無く食い下がる。

「だから無くした覚えは無いんだって!」

「大切な物を紛失した人の大半は、そう言いますね。誤魔化すにしても、もっと気の利いた言い訳が出来ないんですか?」

「──。」

 蒼摩の痛烈な一撃が決まり、一慶は本格的に立場を失ってしまった。

…なんて鋭利な言葉だろうか。

《水の星》の次期当主は、こんな時でも理知的だ。対して。ガツンと打ちのめされた一慶は、反論すら出来ずに黙りこくっている。

 ふん、いい気味だ。
いつもボクをからかっているから、こんな目に合うのだ。ボクは内心、大笑いである。