『裁定』とは──真織の処分を決める為の、一座の特別会合の事だ。

闡醍に堕ちた真織は、こうして二度三度とその罪を暴かれ…最後は、一座の『裁定』を受ける。

 どんな処分を受けるにしろ、最終的にそれを決定し言い渡すのが、首座であるボクの役目だ。

それを思うと憂鬱な気分になる。
ボクに、誰かを裁く権利などあるのだろうか?人が人を裁く事に、とてつもない恐怖を覚える。

「正式な就任前にも関わらず、首座さまには、当家の為に大層な御骨折りを頂きました。当主に成り代わり、敬って御礼申し上げます。」

大きな体を折り曲げ、深く深く頭を下げる隆臣。この人が北天に就いてくれるなら、紫もきっと心強いだろう。

 丁寧な挨拶の後。
隆臣は、ボクの傍らに立つ一慶に視線を移した。

「一慶。この件に関しては、お前達にも苦労を掛けてしまったな。祐介や烈火にも、宜しく言って措いてくれ。」

「はいはい。言っとくよ。」

 砕けた会話だった。
何故ここに、祐介や烈火の名前が出て来るのか解らないが、それを問う事はしなかった。

とにかく今は、ゆっくり休んで貰いたい。
…紫にも、玲一にも。

 「それでは」と言って、歩き出そうとした時。不意に隆臣が、一慶を呼び止めた。

「一慶!忘れ物だ。当主から預かった。」

 そう言って彼が手渡した物は、玲一特製の『マグカップ』が入った、例の桐箱であった…。