向坂家に戻ると、当主の玲一が玄関先に三つ指を着いて出迎えてくれた。

だが、彼は見るからに憔悴し切っていて…相を無くした顔は、まるで死人の様に生白い。

(大丈夫かな、玲一さん?)

 密かに心配をしていた、その矢先──。

「首座さま。この度は、誠に…」

 そう言ったきり、玲一は頭から床に倒れて気を失ってしまったのである。

「玲一さん!?」
「玲一おじさん!」

ボク等は必死に呼び掛けた。
だが、玲一はピクリともしない。

「どどど、どうしよう!?こういう時は一体どうすれば…そうだ!心肺蘇生法!!」

 腕捲りをして人工呼吸を施そうと身を乗り出す──すると。

ボクより一瞬早く一慶が手を延べ、玲一の首筋に触れた。それから鼻先に手を翳し、瞼を開いて確認する。

「…どう?」

 心配のあまり覗き込むボクに、彼は冷静に答えた。

「貧血だな。脈も確りしているし、呼吸も正常だ。今直ぐ、どうこうなる事は無いだろう。──このまま部屋に運ぼう。」

 言葉の最後の方は、隆臣に向けられたものだった。

次期北天を約束された向坂隆臣は、鍛えられたその腕で、軽々と玲一を抱えあげた。そこに一慶が付き添い、二人で私室に運び込む。

 その間。ボクと蒼摩は、応接間で休ませて貰う事になった…。

 暫くして、一慶が応接間に戻って来る。

「掛かり付けの医者に診て貰った。心配無い、ただの過労だ。」

「過労──。」
「あの人も、無理をするタイプだからな。」

 そう、か…。
勿論、無理をしていた事だろう。

こんな風に家族がバラバラになって、精神的にも、そうとう参っていたに違いない。…見るからに真面目そうな人だもの。

 独り思いに沈んでいると、突然、一慶にデコピンされた。

「痛──!何するんだ、いきなり!?」

「お前が湿気た面しているからだよ、焼き饅頭。心配無いって言っただろう?ゆっくり休めば、直きに治る。」

「うん…そう、だね。」

 いつもいつも、絶妙なタイミングで声を掛けてくれる一慶。落ち込んでいる時の、こうした励ましは正直とても有難い。

 ──だが。
こんな時まで『焼き饅頭』は無いだろう。
長い指から繰り出されるデコピンも痛い。