親父の遺骨を丁寧に、小袋に仕舞いながら、祐介は言う。

「予定では、昨日の内に甲本家に到着する筈だったのに…随分と遠回りしたものだね。まさか熱中症で行き倒れているとは思わなかったが…キミが此処に運び込まれた事で、僕としては手間が省けたよ。この骨は、いずれ僕が浄める事になっていたしね。」

 そうして、ボクの掌にポンと小袋を乗せる。

「はい。これはキミに返そう。」
「えっ!? でも、返すのやめたって…」
「あぁ、気が変わったんだ。」

 興味を失った様に、彼は答えた。
ボクが訝かると涼し気に笑って見せる。

「キミも言ったろう?これはもう呪具ではない、『ただの遺骨』だ。僕の仕事は済んだからね。遺骨は、ご遺族にお返しするよ。それから、一つだけ忠告。僕は気分屋だから、こんな風に突然気が変わる事は、別段珍しくはない。振り廻しているつもりは毛頭無いが、それで誤解を受けるのは御免被る。長い付き合いになりそうだし、キミも、その辺は良く覚えておいて。」

「…はぁ。」
「どうぞ?──要らないの?」
「要らなく…ない、です。」

 何やら釈然としなかったが──
こうして袋が手元に返ってきた事だし、ボクもそれ以上言及する事は無かった。

 それにしても、坂井祐介とは一体どういう人間なのだろう?
毒舌家だが、誠実でもある。信用は出来そうだが、その実、何か裏がありそうで怖い。理路整然と我儘を正当化する、この論客ぶり…反論したところで勝てる気がしない。どう考えても、彼の方が一枚上手だ。

 困惑するボクを見て、祐介は華やかに破顔する。
それして、外した眼鏡をもう一度掛け直すと、また元の素っ気無い医師の顔に戻ってしまった。

「…いい子だね。これで治療は終わりだよ。それを持って、総本家に行きなさい。ロビーに迎えが来ている筈だ。」

「迎えって…苺と一慶?」

「あぁ。遠慮しないで送って貰うといい。まだ無理は禁物だよ?それと、入院費の請求書も出しておく。支払いは後日で構わないが、親族だからと云って滞納は困るよ?」

「えっ?」

「慰霊術の料金はサービスするけれど、医療費までは無料に出来ないよ。悪いが、これもビジネスだ。」

 ビジネス…。
確かに、医療もビジネスには違いない。
だが、この言い方は如何にも事務的で感じが悪い。