その時である。
背後で、誰かがポツリと呟いたのは──。

「…星?」

 性別不明なか細い声が、虚ろに独りごちる。

「あぁ…星じゃない。あれは月だ。真っ白な──綺麗な満月…。」

 皆が一斉に、そちらを振り返った。

破れ障子が晩夏の夕焼けを映して、真っ赤に燃えている。…その前に、鷹揚と身を起こし、夢見る様に天を仰ぐ紫の姿があった。

長い黒髪が華奢な背を覆って──まるで、月に還るかぐや姫だ。

「紫?」

遠慮がちに声を掛ければ、ゆっくりと顔を巡らせた彼の視線と出会う。

「…こんばんは。佳い月だね。」

 月? 何を言っているのだろう??
部屋は何処もかしこもピタリと閉められていて、月はおろか外の景色すら見えなかった。

 まだ混乱しているのだろうか?
反応に困って押し黙っていると、紫はカクンと首を傾けた。

「あ、兄さんだ。久し振り…。」

 真織の肩がピクンと跳ねる。
紫は、子供の様な口調で語り掛けた。

「どうしたの、今日は賑やかだね。みんなで集まって、何をしているの?」

「何って、お前…」

 一慶が、呆れた様に溜め息を吐く。

「迎えに来たんだよ、お前を。」
「僕を…??」
「そうです。一緒に帰りましょう。」