悪に堕ちた行者を断つ為…時に首座は、それを裁かなくてはならない。闇行者から行力を取り上げ、仏に返還するのである。

首座が行う、最後の極大慈悲(ゴクダイジヒ)。
その理は、此処へ来る道すがら、一慶から聞いて知っていた。

 だが…こんなにも苦しみもがき、罰を欲しがる真織から、行力を取り上げる事が…本当に、全ての解決になるのだろうか?

ボクには、どうしてもそれが躊躇われた。

 母の罪を全て我が身に振り替える為、繰り返し呪殺を行った真織。

彼を裁く法律は、この国には無い。
『呪い』と『突然死』の因果関係を立証する事など、凡そ不可能な事なのだ。

 真織を裁けるのは、首座であるボクしかいない。全ては、ボクの裁量に委ねられる。

 破門、絶縁、幽閉、陰遁、窒居、隔離。

それが…首座が行使する事を許された厳罰の全てだ。この中の何れを、彼に課せば…罪の重さと釣り合いが取れるのか──?

 誰にも裁かれずに、人としての生を全うするには、真織の犯した過ちは、あまりにも重過ぎる。

それは良く解っているけれど…。

 ボクはいつまでも、その決断を出来ずにいた。