「それじゃあ、千里さんは…?」

 呪殺されたのでは、なかったのだ──

そう言い掛けたボクの言葉に、真織は優しく半眼を細めて頷いた。

「はい。先程も申し上げた通り、母は病死です。私は、母の呪殺に失敗しました。紫は、母を護り抜いたのです。」

 それだけ言うと。

彼は、ガクンと膝から崩れ落ちた。

「…首座さま。私を処分して下さい。」

 額を畳に擦り付ける様にして、真織は必死に訴え掛ける。その声は、堪えきれない嗚咽で震えていた。

「行力の全てを、み仏に御返し致します。どうか、この忌まわしい力を取り上げて下さい。先代の首座は、それを許しては下さらなかった…でも、貴女なら」

 真織は、そこで一息吐いてボクを見た。

「貴女なら…私を、この呪縛から解放して下さるでしょう?」

そう言って、尚も深々と頭を下げる。

「どうか、極大慈悲(ゴクダイジヒ)の御裁きを…。私をお救い下さい、金の神子さま!」

 …ボクは。
一体、どう応えれば良いのだろう?

先代の首座──つまり、ボクの親父は、真織を処分しなかった。恐らく、事実を特定出来なかったからだろう。

 だが真織は、行力を仏に返還する事を望んでいる。もうずっと前から、誰かに裁かれることを、望んでいたのだ。