無言のまま、暫し一慶を見つめていた真織だったが──やがて、観念した様に重い口を開いた。

「本当に…敵わないな、君には。」

 そう言って、僅かに肩を竦めて見せる。
緊迫した空気がフッと緩んだ。

「確かに…母を《黄泉比良坂》に導いたのは私だ。そうして、然るべき時期に安らかに逝かせてやるのが、私の務めだと思っていたのだ。それを『殺意』と呼ぶのか否か…私には、判断出来ない。」

 自嘲を洩らす真織は、すっかり人の心を取り戻している。だが、その顔は絶望に満ちていた。

「君の云う通り…まさか紫が、母の後を追って離れまでやって来るとは思ってもみなかった。十三歳の子供が、たった一人で、あの坂を登ったのだよ。当に、予想外の出来事だった。」

 蒼摩は、真織を見据えて訊ねた。

「どうして紫さんは、千里さんの後を追ったんでしょう?貴方は、どう解釈しておられますか??」

「私に、母を殺させない為だろうね。紫は、私が何をしてきたか…これから何をするつもりなのか、全て解っていたんだろう。」

「それで貴方は、千里さんを呪殺したのですか?母親を殺し…嫡子を害して、向坂家から絶縁される為に?」

 残酷な言葉を重ねる蒼摩に、真織は少し困った顔をして笑った。

「あぁ。何度か呪殺を試みた。だが、全て紫に跳ね返されたよ。結局私は、母を殺す事が出来なかった。」