ボクは束の間、混乱する。
複雑過ぎる事情に、気持ちも頭も整理が着かない。

「どういう事…?闡醍(センダイ)って何?? ボクにも解る様に説明して。」

 縋がる様に見上げた先には、一慶の苦し気な眼差しがあった。

「闡醍(センダイ)とは、仏を害する者の事だ。仏性を失い、徳の根が枯れているから、如来の法を聞くことが出来ない。仏ですら救う事の出来ない邪な者を、闡醍(センダイ)と呼ぶんだ。」

「何故、真織は闡醍(センダイ)になろうとしたの?」

「現役の六星行者は、自殺する事が出来ない。普賢延命菩薩(フゲンエンメイボサツ)の守護を頂いているからな。だが──闡醍に堕ちれば、話は別だ。自ずと寿命が縮まり、無間地獄に堕とされる。真織は、千里さんと共に冥府に行くつもりだった。彼女だけに呪殺の大罪を償わせるのが、忍びなかったんだ。」

「そうなの、真織?」
「……。」

 頑(カタク)なに、黙して語らぬ真織。
どうやら一慶は、彼の目論見を剰さず言い当てていたようだ。

癒者でありながら、多くの命を無意味に奪い続けた狐霊遣いは、ガクリと項垂れ涙を流した。

 一慶は、尚も語る。

「千里さんの遺体には、複数の狐霊が潜伏していた。あれは、彼女が生きている様に見せ掛ける為のカモフラージュか?だから、玲一さんも、彼女の死に気付かなかったんだろう??」